彷徨える宇宙人(序章)
突然、惑星スムカの上空に現れた宇宙船群

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(1)

 西暦2132年、地球から2000万光年離れた、おとめ座の楕円銀河の惑星スムカで、元地球人の机化一(ツクエケイチ)は暮らしていた。
 
 スムカは、多くの点で地球に似ていた。密度や大きさはほぼ同じであった。
 太陽となる恒星テンタも、地球を照らした太陽とほぼ同じ質量であった。
 テンタとスムカの距離も太陽と地球間のそれとほぼ同じであった。
 地球とスムカの大きな違いは大気であった。
 スムカの大気は原始の地球に似ていたのである。

 2101年、机化一はUと共鳴し、ネオUとなり、宇宙へ旅立った(嘘空間記:SOSブラックホール)。
 彼は宇宙を彷徨った。
 さ迷いの中に目的もあった。
 その目的の一つは、地球に似た環境の星を見つける、ことであった。
 スムカはそんな星の一つであったのだ。
 スムカは、冷えて安定してきた原始の地球に似て、岩石と海洋とガスの星であった。
 ガスは火山活動によって、主に内部から噴出した成分から成り立っていた。酸素は少なく、窒素・二酸化炭素・水蒸気・メタン・アンモニヤ・硫黄を含むガス等が主成分であった。
 ガス層は薄い。昼は強烈に暑く、夜はその逆であった。

 化一は決意をした。
 恒星テンタ系の惑星スムカを、地球型生物の住める環境の星につくり上げることを・・。
 体内に、素粒子融合炉組織を有するUは、あらゆる無機物を合成する能力を持つ。
 机化一が共鳴合体したネオUは、有機物は元より、記憶上の生命体を合成することも可能であった。
 
 彼等(?)はまず、ドームを造った。
 ドームの内側に擬似地球環境を創出した。
 化一が育ち暮らした日本の中国山地の、山間の村に似た住環境であった。
 これは、消滅していた故郷の生家を、かって再現した経験が大いに役立ったのである。

(2)

 ドームの内側において、化一はUと分離可能であり、一人の人間として暮らせた。
 彼等(?)はひたすらにドームを増やしていった。ドーム間には、仕切りが設けられた。ドーム間の災害伝達を防ぐためである。
 一方において、この星の大気や海洋で生息可能な生物の探索も行った。
 極めてゆっくりではあるが、スムカの環境を地球に似せて行ったのである。
 UやネオUの能力は優れてはいるが、このプロジェクトを完遂するには小さい。
 仲間達を呼び寄せる必要もある。

 だが、同時進行で、自然的浄化も行われている。
 すなわち、ドーム外でも、酸性成分とアルカリ成分は、互いに反応し、より安定な岩石や土砂等に変化して行き、メタンは燃えて炭酸ガスと水に変わって行く。
 
 そんなある日、化一はお気に入りの透明なドームの中で、天空を仰いで芝生に横たわっていた。
 海洋に程近い、火山活動から遠く離れた場所であった。
 
 青を反射する大気の層は、地球に比べ薄く、晴天と言えども透明な暗いブルーの空である。透明な暗いブルーの奥に、無数の星が、パソコンの壁紙のごとくチラチラと輝いていた。
 彼は、地球時代から、仰がして、天空を眺めることが好きだった。そのころも、孤独を好んでいた。
 現状、彼は惑星スムカにおける、たった一人の人間である。
 彼は、孤独に慣れていたのであった。 が、記憶上ではあるが懐かしい人々はいる。
 遥か遠いこの星にいて、今は亡き人達をも想う。
 時には、ドームを透してみえる、このスムカの空に、その人の顔や姿が浮かぶ。
 このドームの空は、化一にとって、巨大な想い出ビジョンでもあった。

 スムカの地球環境化には、避けて通れない問題がある。
 ドーム外で生きられる幾種もの有機生命体を見つけ、それらを適所に放つ必要がある。
 かって、超古代の地球で発生した原始の生命体達が、自らに合うように地球環境を変え、あるいはその環境に合うように、自らを進化させていったごとく、現状のスムカ環境に合致した、そのような生命体を見つける必要があったのだ。
 
 植物性や動物性のそれを、試してはいた。
 有効なものも、あった。
 だが、それらには悠久の時が必要であった。生命の星、地球は、一朝一夕では成らなかったのだ。

 (3)

 天空、化一の足の方向から、中天に向う白いものが現れた。
 複数であった。
 星では無かった。しだいに数を増して、空いっぱいに。
 音が低く聞こえてきた。
 一つ一つが、巨大な飛行体。形は様々である。

 地球に居た頃、化一は時折、夢に見た。
 
 故郷の南に開けた山間の村で、突如として、天空いっぱいに、様々な形をした数限りない飛行体が現れ、南から北へ向かって飛んでくるのを。
 爆音を轟かせている時もあれば、シーンと静まりかえっている場合もあった。
 宇宙人の襲来を思わせる、迫力ある、異様な夢であった。

 今、化一の眼前で起こっている現象は、その夢にそっくりであった。
 夢の場合は、その迫力のためか、そこで目が覚めた。
 だが、今は夢とは違う。

 彼らは高度を下げている。
 「スムカに着陸するのか?」
 白色の輝く銀体は、滑らかなに見える。
 「平地を目指しているのか?」 化一は身を起こした。
 北方向に遠く広大な平原がある。
 先頭は、まさに、その平原に降りつつある。

 化一はUを呼んだ。
 直ちにUは出現し、その直径100mにおよぶ碁石形の巨体を、ドームにつけた。
 化一は気晶体となり、Uに取り込まれ、中枢部で燈黄色に輝いて、Uと共鳴合体した。
 その瞬間、彼らはより能力の高いネオUへと、変化したのである。

 (4)

 ブラックホールで、X線などの素粒子を食して成長した高度知能宇宙生命体Uの仲間は、その体内に素粒子融合炉を有する。
 その融合炉で、あらゆる種類の元素をつくる能力がある。
 さらに、いかなる化合物をも合成する能力を備えている。
 
 しかしながら、自らの子孫を除いて”生命体”をつくりだす能力はなかった。
 だが、机化一と共鳴合体したネオUは、生命体をもつくる能力を備えていたのであった。ただし、化一の脳に組み込まれた範囲内の生命体ではあったが。
 
 Uは人間の名づけた彼への呼称である。同様に、人間は彼らの仲間の総称を、彼らの発見当初の呼び方に基づいて、Nb(エヌビー:ノンブラックホール)と名づけた。
 Nbは他にも素晴らしい能力を持っていた。
 
 その一つが空間を移動するスピードであった。
 最高で光速の1/2に達っするのだ。 だがこれで驚いてはならぬ。
 彼らには異次元空間を利用する能力があったのだ。
 これは、ブラックホールで育った彼らに身に付いた能力であった。超重力から身を守る能力でもあった。

 彼等は三次元空間を、一瞬、異次元化して突き進む。
 机化一には、それが、三次元空間を二次元化して突き破り、より遠く離れた三次元空間へ移動するごとく想われた。
 だが単に、別な異次元空間、たとえば一次元や五次元以上の多次元を利用して、その場を迂回しただけであったのかも知れぬ。

 かって机化一は、Uのこの能力を利用して、宇宙の果てまで到達したのだった。

 Uにとって、この惑星上で、大平原に行くのは簡単であった。
 だが、たった今そこに着陸している多くの飛行体に関しては、まだ謎からのスタートであった。

 Uにはさらに素晴らしい能力がある。
 無機質の彼の巨体にはきわめて高度な知能もあった。
 情報収集能力とそれを解析する能力もあった。
 
 ネオUは情報を得、瞬時に解析しつつ大平原へ向かって行く。

 (5)

 ネオUは机化一とUが一体化した生体である。しかしながら、両者間の会話もある。いわば気のあった運命共同体でもある。
 大平原を迂回するネオUの中で、Uが言った。
 「あの宇宙船には、君と同じ生物が多数居る」
 「え!地球人か?」
 「いや、地球人とは断定しないが、ほぼ地球人と同じ生物が居る」
 「どこの星から?」
 「わからない」
 太陽テンタの光をあびて、白銀色に輝き、大平原の一角に降りたばかりの宇宙船群、内部には、多種多様の生命体が存在した。
 しかも、地球人とほぼ同じ生物も居るというのだ。
 
 「危険度は?」
 「低い」
 ネオUあるいはUとして、彼らから受ける危険度は低いらしい。
 
 やや間をおいてUが言った。 
 「彼らの方が私を警戒している」
 数機の宇宙船が砲らしきものを出し、ネオUに向けていた。
 「離れる」
 直径100m碁石状の巨体のネオUは、大平原端の中空から、ゆっくりと離れ距離を置く。
 「彼らに我々が敵でないことを知らせる必要がある」
 「その方法は?」
 「まず、彼らの言葉を知りたい」
 地球において、Uの通信パルスを解読し、地球人との会話の糸口をつくったのは、他ならぬ机化一であった。
 「今度も君のパルスを送るか?」
 「どんなパルスを?」
 「・・・・、平和を伝えるパルスを!だ」
 「・・・・・」
 「そうだ」 やや間をおいてツクエケイチは言う。
 「彼らが、地球人とほぼ同じ生物だと、君は言ったな」 
 「うん」 
 「平和の歌を流そう」 
 「うん! どんな?」
 ツクエケイチは、そくざに言った。
 「ふるさと! だ」 彼は日本人であった。それは、いつも心にある歌であった。
 
 ネオUは、大平原の宇宙船群に向かって、それを奏でた。田舎の町に時を知らせるメロデイのごとく。

 (6)

 ”うさぎ追いし彼の山 小鮒釣りし彼の川 
 夢は今もめぐりて 忘れがたきふるさと”
 
 ネオUの奏でる、穏やかなメロデイが、大平原に流れる。
 
 「地球に比べて酸素濃度は低いが、大気濃度は大きくは違わない。音の伝わりに問題はない」 Uが言う。
 「ここで、このメロデイを聞くとは予想外だよ」 と、ケイチ。
 「宇宙船が何となく騒がしい」 情報能力に優れたUが言う。宇宙人がメロデイに反応しているらしい。
 「うん、どう出るかな?」 
  
 しばしの時が流れてゆく。

 同じメロデイが帰ってきた。
 宇宙船群のおおよそ中央に位置する艦からであった。
 ネオUとは異なる音色であったが、ケイチには爽やかに聞こえた。
 だが、少しの間をおいて、次に流れてきたメロデイがあった。
 
 ”赤とんぼ” であった。

〜2006.08.19 (序章・・終わり)