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甦る惑星 T Uへ 

V M61銀河の惑星サドン


 M61銀河は乙女の図を星座に則して当てはめた場合、首の下方、胸元の位置となる。
 1779年5月5日、彗星を観察中のオリアニによって発見された。同日、星表を作った著明なフランスの天文学者、メシエも気付いたとされるが、彗星のために確認が遅れ、その6日後の5月11日に確認したと伝えられる。(Mではじまる銀河名称は彼の星表による)
 地球から見て明るい星雲ではない。
 渦巻き型銀河である。
 我々の銀河のおよそ四分の一の大きさと言われる。
 過去に3回、超新星が観察された。(1926、1961,1964)
 このうち1961年の爆発が最も大きかったと記録されている。
 超新星とは、太陽よりも十倍以上も重い質量をもつ星に起こりうる現象である。重力・圧力に起因して、中心部にたまった強烈なエネルギーが一挙に大爆発し、周囲にすさまじいエネルギーを放出する。それが星の光として観測されるものである。

 「次の星は、どんな星なんでしょうね?」
 「地球に酷似した生態系を持つ星です。名はサドン」 

 二人は瞬間に移動する。M104からM61へ。そして惑星へ。
 M61の惑星サドンの大都会が眼下にあった。
 我々二人が立っているのは、東京タワーに似た鉄塔の上である。
 コンクリートらしきビルディングが眼下に広がっている。
 道路が、網の目のように張り巡らされ、公園らしきスペースも所々に存在する。
 しかし、どこか変である。
 地球の大都会とは全く異なった、あることに気付いたのである。
 
 ”その都会は機能していない!”
 まるで枯山水のごとく広がり、あるいは人手の絶えた墓地のごとく佇んでいる。
 道路上には多くの車が連なり、動くこともない。
 「これは死の街だ」私がつぶやいた。
 「サドンは死に、サドンは甦るでしょう」沈んだ表情のまま、アストレイアはこたえる。
 ビルにさしたる損傷もない。
 街路樹は茂り、手入れのない草木は伸び放題である。
 小さく、動物が草木やビルの合い間を動いている。
 「もう少し下へ移動しましょう」とアストレイア。

 人間がいた。
 惑星サドン、季節は初夏の気候、彼らは布を着けていた。
 破れた布に、首や手足を通し、初夏の寒さをしのいでいるようである。
 頭髪や髭、爪も伸び放題、表情や動きは動物的である。
 「野蛮人だ!」思わず声に出す私。
 「今はそうですが、42年前までは文明人だったのです。地球とは4100万光年離れた42年前ですが」とアストレイア。
 地球よりは、はるかに早い文明を持った星である。
 地球で42年前と言えば1961年である。この年、M61銀河で、最大の超新星が記録されていた。
 「この銀河の超新星出現と関係が有りそうですね」と私。
 「そうです。超新星による特殊な放射線が,脳神経細胞(ニューロン)間の連携を狂わせたのです。全サドン人が猿のレベルまで退化したのです」
 「子供は!生まれてきた子供達もですか?」
 「放射能を浴びた世代と、その子供達は退化状態が継続しています。しかし三代目の幼児達には知能の回復が認められます」
 「知性や文明との間に、完全な断絶が出来ましたね」
 「そのとおりです」
 「これは大変なことだ。正常な脳に戻った世代の人間達は、どのように反応して生きてゆくのか?。どのような歴史を創ってゆくのか?私には興味深い」
 「そうでしょう。多くの創造がなされる。多くの想像が可能となります」
 いつの日にか、文明の構築がなされ、過去への学問も大いに盛んになるのであろう。私には、エジプトの絵文字や、ナスカの地上絵に挑戦する考古学者達が思い浮かんできた。
 
 「サドンの自然環境はかなり浄化されるでしょうね、地球は行き詰まっていますが」
 中途半端な、知能を持った人間が、保身本能で築き上げた地球世界。今の住環境の改善には、気の遠くなるような我慢と努力が必要である。それに比し、この惑星サドンは今、自然に回帰しつつある。植物や微生物が水質を浄化し、生物連鎖が活発化しつつあるのだ。サドン人の犠牲によって。
 知能と文化文明の退化したサドン人は食糧難・病気・住環境等で大きな悲劇に見舞われている。
 これが惑星サドンを甦らせている。

 ”人間は自然環境にとって悪なのか?”
 ”人間は自然の一部である”
 ”環境破壊も自然現象の一部である”
 ”自らを住み難くする人間は馬鹿である”
 ”馬鹿であることも解っている”
 ”本当に解っているのか?”
 
 「M61銀河の中心は、まだ不安定です。超新星は今後も現われる可能性があります」、テレパシーの声で、私はわれに帰った。
 「サドンの悲劇は終わっていません」彼女の顔はいつまでも暗い。
 「あなたは、地球に希望をもっていますか?平和な環境になった地球に戻ってきますか?」
 彼女は答えない。私は続ける。
 「このままでは地球の人間にも、いつか必ず大きな自然淘汰が起こるでしょう。
 それが核戦争によるものなのか、新たな不治の病によるものなのか、食料危機によるものなのかは解りませんが、大きな不幸が訪れるでしょう。増えすぎたある種のネズミが、集団で崖から海へ、飛び降り自殺をするように」
 
 「人間は残念ながら馬鹿な部分を捨てられません。エゴイズムと言う身勝手さを」、私はさらに続ける。
 「自然的に人口を減らすこと、これだけが人類にも地球にも、未来に、希望をもたらせる。そんな気がします。
 少子化、これが最大のキーワードでしょう。地球には人間が多すぎるのです。
 恐ろしい、自然淘汰を避けるには、世界が今以上に、これに取り組むべきです」

 「惑星サドンに起こったような、どうしょうもない自然現象と異なり、地球では人間が自然環境を変えているのです。これは全ての人間、一人一人の責任なのです。人間はこれを解決する責任があります。まだまだ自覚が足りません。これを解決すれば私は地球に戻るでしょう」 と、アストレイアは答えた。
 平気で、野山や河川・海に不法投棄する多くの人々、彼らにはエゴイズムが優先している。
 エゴイズムがまかり通る地球の人間社会。
 空き缶やアメの紙もキチンと処理しなければならぬ。
 
 彼女は地球に戻ってきそうにない。
 
 「あなたは、これを見せるために私をここへ連れてきたんですか?」私はやや抗議気味に聞いた。期待したほどの楽しさがないからである。
 「そうです。あまり面白くなかったですね。
 でもあなたは今後は何処へでも自由に行けます。例えば、この星の何処へでも、過去へでも、未来へでも。あなたは自ら選べるのです」
 「−−−」
 「宇宙にも、地球と同様に、素晴らしい景観の場所もあれば、そうでない場所や危険な世界も数多くあります。アンドロメダがあなたに送ったプレゼントを使いこなすか否かはあなた自身が決めることです」



 蝶ケ山、満天の星空である。
 エアーマットに仰向きに寝そべり星を眺める。
 少し南よりの空、春の大三角がある。白く輝く真珠星スピカ、オレンジ色に燃えるアークトウルス、しし座のゼネボラである。
 スピカとゼネボラをつなぐ線上、ゼネボラ側から約三分の一付近、おとめ座の胸元にM61星雲がある。
 
 一瞬、乙女の胸元でペンダントが光った。
 超新星の光か、私の目の錯覚か、そのあとの輝きは無い。

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                               (嘘山行記三部 甦る惑星 完) 2003年3月19日(水)ーーー イラク戦闘近し