SOSブラックホール(パート3)

地球人の宇宙化・・・

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(1)

 放射能汚染が消えた。オゾン層も再現した。
 長年の人間達の暗い思いが解放された。
 世界が背伸びを始めた。
 人々は、宇宙生命体”U”の底知れぬ能力に驚いた。
 
 ”エネルギーの存在するところ、そのエネルギーに適合し得る生命体が存在する可能性がある”
 
 Dr.テンロクこと天田六助は、こんな法則じみた格言を、提唱したくなった。
 
 一個(一体)のmエヌビー(マザー・ノンブラックホール)であるUは、その仲間達と共に、宇宙線(素粒子)エネルギーの極めて豊富なブラックホール(B)近辺で育った。
 育ち成長し、子供を生む。
 子供はB(ブラックホール)近辺で宇宙線、とりわけ豊富なX線を吸収し、親の世話になることも無く、自ら育つ。その身体中には素粒子融合炉を有している。
 子供を生んだmエヌビー達はBから離れ、宇宙を彷徨い、やがてそれぞれの場所で、それぞれの生涯を終える。
 Uは地球で最期の生涯を終えた。
 しかし、その体内中枢で、地球人、気晶化した机化一と共鳴することによって、”ネオU”としてよみがえった。
 よみがえって、地球を去った。いつ帰るともなく。
 彼らの行方はわからない。
 
 ネオUが去って数年が過ぎた。
 世界中に、ある共通した一つの現象が生じていた。
 それは、かってUが地球上の放射能汚染源をおさえるため、吹き付けた砂状物質(ブラックサンド)に、である。
 球状のブラックサンドは成長し、大きいものはこぶし大の石へと変化していた。
 「放射線を吸収し、成長した」、地球人は、そのように推測した。
 やがて
 「Uの放出した砂はNb(ノンブラックホール)の一種ではないのか?、つまりUの子供と思われる」 
 と言う、一人の意見が提起された。
 そして、この意見が証明される時がきた。
 それはUが到来し、ブラックサンドを放出してから6年が経過した2120年のことである。
 放射線汚染物質の放射能を吸い尽くしたUの子供達は、次々と宇宙へ飛び立ったのである。
 数知れぬ、小石からこぶし大の石が、より栄養素に満ちた宇宙空間をめざして、おそらくはブラックホールをめざして、地球を脱出した。
 彼らはより巨大に成長せねばならないのだ。

 驚きの中で、Dr.テンロクはこの現象を考えた。
 そこには、想像を絶する内容が含まれていた。しかし想像に過ぎなかった。


 宇宙は、我々人間からみれば、無限の広がりをもっている。
 宇宙の中には、無数の銀河がある。
 一つ一つの巨大な銀河、それが遥かなる距離をおいて無限の空間に浮かび、無数に存在する。
 現状、地球からの観測によれば、それら一つ一つの銀河は、猛スピードで間隔を広げ、遠のいている。
 つまり、無限の宇宙が無限に広がり続けている。
 
 中程度の大きさである、銀河(星雲)の一つ天の川、そこにある小さな一つの星に住む、我々人間には、これ以上のことは分からない。
 天の川銀河だけでも、推定二千億を超える星が存在する。
 
 あとは想像の世界である。
 
 2109年の秋、化一との共鳴体であるネオUは地球を飛びたった。
 1/2光速に達したあとワープした。
 到達した最初の場所は、天の川銀河中心のブラックホールの入口である。ここで、X線を始めとする豊富な宇宙線を吸収し、活動エネルギーを貯めた。
 化一はまず、天の川銀河を探索することを始めた。
 主たる目的は地球人の住める星の存否であった。
 星の数はあまりにも多い。詳細な探索は不可能である。
 時にはゆっくり、時には猛スピードで、ワープを繰り返し移動する。
 化一はより遠くを目指したい。
 宇宙の果てを目指したい。
 天の川銀河の次はアンドロメダ星雲だった。
 さらに遠い星雲へと、ブラックホールでエネルギーを補給しつつ、探索しつつ、次々と星雲を求めて遠く離れて行った。
 化一の星雲間航行は、誰一人の地球人に知られることもなく、つづいていった。


(2)

 2135年、ブラックサンドが地球を去ってから15年が経過した。
 机化一のネオUが地球を飛び立ってから26年後のことである。
 1個のmエヌビーが地球に飛来した。
 地上にパルスを送った。
 「自分は地球で生まれた。Uの子供である。ツクエケイチのメッセージをあずかってきた。Dr.テンロクと話したい」 と。
 天田六助は71歳になり、すでに第一線をしりぞいていた。
 常に脳裏を離れることの無かった男”机化一”、彼のメッセージに心が躍った。
 「Uの子を鳥取砂丘へ!」 
 
 そして、化一がした様に、天田六助はUの子のかたわらに立った。秋、波が小さく飛まつを散らしている。
 直径100m、Uそっくりの碁石状巨体が、Dr.テンロクと会話する。テレパシーで。
 
 「ツクエケイチは、地球から2000万光年離れた、おとめ座の楕円形銀河の惑星にいる。そこは地球とよく似た環境である」
 「彼は元気か?」
 「彼は元気である。彼は自分の生家そっくりの家を作り、少年時代そっくりの環境の中で暮らしている」
 「宇宙の探索や航行は、しないのか?」 
 「現状、する気はない」 
 「宇宙で、なにを発見したのか?」
 「地球から観測して、推測されていた、多くの現象に遭遇した。人間の居住可能な、数多くの惑星を発見した」
 「地球生物の住める星が、数多くあるのか?」
 「ほとんど無数と言ってもよいほど存在する。有機体生物も地球と同様に存在する。宇宙は、互いに遥か離れてはいるが、生命達に満ちているのだ」
 「宇宙の探索を中止した理由は?」
 
 「理由はいくつかある。
 一つめの理由は、少年時代に過ごしたのと同様の環境の中で、静かに暮らしたいことである。
 二つめの理由は、宇宙を飛び回ることに飽きたことである。
 三つめの理由は、宇宙の壁に到達し、探索の無限さに気づいたことである。
 自らの限界に、彼は気づいたのだ」
 
 宇宙の壁とは何か?
 Dr.テンロクは三つめの理由に、心を支配された。
 「宇宙の壁とは?」
 「この宇宙全体をとりまいている壁のことである。この宇宙は閉鎖された空間だった。ネオUは、そこに到達した」 
 「君も到達したのか?」
 「そうだ。ネオUと私の二体が宇宙の壁に到達した」
 「君はUの子供であって、ネオUではない。君もワープが出来るのか?」
 「出来る。ネオUに学んだ」 
 
 ”このUの子供は、特別な子供かも知れぬ” と六助は思った。
 
 「宇宙の壁のことを話してくれ」 と。
 ネオUのかたわれである机化一、彼からのこの使者は、最高のメッセンジャーかも知れぬ。

 「宇宙の壁は、中空ゴムボールに似て柔軟性がある。果てしなく膨張を続けた結果、すでに多くの部分に孔が開いている」
 「この宇宙がゴムボールの中と同様だと言うのか!」
 「ゴムボールと言うより風船に似ている」 事もなげにUの子は答える。
 「すでに、この風船は破裂が始まっているのだ」 六助にとっては、否、全宇宙にとっても、まさに驚天動地の事がらを、Uの子は語る。
 「この現象が地球に及ぼす影響は、まだまだ先のことである」 と。

 「地球は、太陽は、銀河は、どうなるのだ!?」 恐るべき!突然の情報にDr.テンロクは我を忘れた如く声を発した。
 「全てが崩壊する。新たな宇宙が形成される。すでに、その過程に入っている」 Uの子は語る。常に冷静である。
 
 この無限の宇宙、その宇宙にも果てがある。
 その果てには、壁がある。
 その壁は、宇宙の膨張にともない、ゴム風船の如くふくらみつづけ、ついには孔があいた。
 ゴム風船が破裂するように、やがて宇宙は破裂するだろう。
 この宇宙に存在する全てのもの、無数の銀河、それを構成する、より無数の星々、ガス、大気、が激しく吹き飛び入り乱れる。

 「この世の終りである」 六助は結論づけた。とっさの事、ほかに考えようが無かったのである。
 「ツクエケイチからのメッセージをつづける」 憂鬱に支配された天田六助に、Uの子は語りかけた。
 「ネオUは、この危機を乗り切れる」 


 U(mエヌビー)は知的無機質生命体である。宇宙線エネルギーを吸収して、宇宙空間を生活フィールドとして生きていた。
 その生涯の終りに、知的有機質生命体である机化一(人間)と自己の体内中枢で共鳴共存することによって、ネオUとして再生した。
 その能力は、mエヌビーの能力を遥かに凌駕する。
 
 ゴム風船の中のような、この宇宙。このゴム風船が破裂する。
 この宇宙が、はるかに巨大な外部宇宙に同化する。
 その瞬間、この宇宙は消し飛び、消滅する。
 その瞬間(地球生物にとっては永い時間)を、ネオUは生きのび、新たに突入した巨大宇宙の中に、その生存場所を確保し得ると言うのである。

 「人間を、ネオUに!、と言うのか!」 Dr.テンロクは唸った。
 「地球上の全生命種をも、運べる」 Uの子は言う。
 「我々の仲間は、地球を視野に入れて行動している。地球人や地球生命体を助けたいのだ。同時に我々も」 
 「ネオUは不死か?」 と、Dr.テンロク。
 「人間の寿命と共に死ぬ」 Uの子は答える。
 「人間の寿命は、病気や事故が無ければ、約130歳である。我々は、人体を完璧な健康状態にコントロールし得る。人間はネオUから分離独立して活動出来る。その間、ネオUは動かず(動けず)に待つ」 
 「人間を気晶化するのか?」 
 「我々の体内中枢で、我々個々と共鳴する。それには気晶化していなければならない。しかし体形は人間が自分自身でもコントロール出来る。必要に応じて元の姿に成れる」 
 「他の動物や植物や微生物を運ぶ方法は?」 
 「我々の体内で運ぶ」 Uの子の応答によどみは無い。
 「机化一からのメッセージは、君たちmエヌビーのメッセージでもあるようだ」 Dr.テンロクは続けた。「一ヵ月後にここに来てほしい。そのとき、返答しましょう」 
 Uの子は地球を離れた。
 
 Uの子がDr.テンロクにもたらした情報は、地球人を文字どうり仰天させるに十分であった。あらゆる地球上での紛争が、この情報でかき消されてゆくかのようであった。
 地球は、この宇宙の破滅に備えなければならない。
 机化一やUの子(mエヌビー)の提案を受け入れざるをえない。
 この提案メッセージは朗報なのだ。地球生命を救う唯一の方法だった。

 一ヶ月が経過した。Dr.テンロクは、それをUの子に告げた。
 「よろしく頼みます。我々は地球脱出の準備を進める。あなた方(mエヌビー)は、この宇宙破滅の状況を逐一報告して下さい」
 「承知しました。現状、地球時間では、何百年以上も先のことでしょう」


 地球人とmエヌビーは共鳴体化し、次々とネオU化していった。
 
 ネオU達はこの宇宙に散らばって行った。
 この宇宙の、数限りない星雲にある地球型惑星に、人間達と地球生命達のコロニーが誕生していった。
 彼らはこの宇宙破滅状況の監視者になると共に、この宇宙の探検者・冒険者ともなっていったのである。
 
 彼ら(ネオU達)の主たるエネルギー源は、ブラックホールにある豊富なX線を主体とした素粒子である。
 ブラックホールは砂漠におけるオアシス、あるいは乗用車におけるガソリンスタンドのごとくであった。
 ブラックホールは地球生命体を救った。
 来るべき、この宇宙の消滅と大宇宙への同化現象、星雲やブラックホールはどうなるのか、全ては誰にもわからない。
 
 この出来事が例えば
 ”大・宇宙の、大・天の川銀河の、大・太陽系の、大・地球の、大・人間の子供が膨らませたゴム風船に孔が空き、空気が漏れ、やがて破裂する!!” だけであったとしても!
 
 宇宙は、どこまでも無限で、神秘である。
 無限大且つ、無限小である。
 
                           (完)     2004.06.06(日)   
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