SOSブラックホール(パート2)

Uが残したもの

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節へ  (2)


(1)

 机化一は夢を見ていた。
 
 深い眠りの闇の中から、かるい夢意識が生まれてきた。
 南に向かう坂道を下ってゆく。
 遠い記憶の下り道、小学校時代の下校路であった。それと直角に交差する道路を越えて、より坂道は急となる。
 道に雪が降り積もり、道は盛り上がり、道の両側は低く広い。
 化一は雪上に尻をつけ、脚を前に伸ばし、盛り上がった道の中央を滑る。中央から横へずれぬように、さほど長くない道を滑り下る。
 黒人の少年が現れ、化一の後を滑ってくる。
 化一は坂の終点に着く。後を振り返る。少年は道の中途で左へ滑る。深い雪を越えて道横に沿って滑下る。
 化一は坂の終点と交差する村道を東へ進む。
 村道の角、南側に建築中の家がある。土壁内部で支える竹格子が編まれている。
 村道も雪が深い。
 道の中央で少年が二人、固めた円錐状の雪に乗って遊んでいる。細い小川が道沿いを流れている。その狭い横を、化一は通る。
 とつぜん、雪は消え、畑が現れる。
 畝が三すじ、小川の北側にある。田舎風体の男達が数人並んでいる。小川に石の橋が架かり、北へ通路がある。
 通路に、真新しい新聞が落ちている。
 「誰だ、こんな事をしたのは、自分はまだ読んでいないのに」 化一の意識が変化してゆく。
 新聞を拾おうとしたが、一部土に埋もれていた。「汚れている」 拾うのを止める。
 横に自転車がある。
 通路を進む。左側に立ち木の庭が現われる。千代(せんだい)である。
 化一の意識がふわっと膨らんだ。「ここは!ふるさと、自分の育った家だ!」 玄関とその周辺が一挙に視界に飛び込んできた。
 思いもかけず、夢の中に登場してきた生家、30年以上前に解体されて消えた家が目前に寸分違わず現れた。
 
 感動し、化一は目覚めた。
 
 確かに目覚めた。クリアな意識がある。しかし、自分の実体がない。
 眼を見開いて回りを見る。何も見えない、色もない。
 ・・・不思議に、戸惑いもない。
 化一の中で冷静に判断力が動き出す。
 ”自分は砂丘にいた。波打ち際で、Uを眺めていた。それ以後の記憶は消えている。そして先ほどの夢をみた”
 突如、彼の脳裏に言葉が入ってきた。
 「ケイチ、君は再生した。君の身体の全機能はベストである。君の全脳細胞は全機能する」 Uの声であった。
 Uはまだ生きていた。
 「U、私は今、何も無い。手足は元より身体も無いよ」 化一が説明を求める。
 「今、まだ君の身体は、私の体内で気晶化している」
 「キショウカ?」 化一が聞き返す。
 「気体の結晶化のことだ。液晶という言葉は聞き慣れているだろう」
 「私が気晶に?」
 「そうだ。君は今、気体生物だ。君の体細胞は霧状に分離しているが、同時に君自身の個体集結パワーによって極めて安定している」
 「なぜ?そんな事をしたのだ?」 
 「それに答える前に先ず言っておきたい。君は心配しなくていい。君はいつでも元の人間の姿に戻れる。君が望まないのであれば、再び気晶に戻る必要もない」
 「私は地球の人間だ。人間の姿が良いのに決まっているだろう」 そう言ったあとで、化一の内部に、好奇心が強く湧き出てきた。
 「私を気晶体にしてどうしょうと言うのだ?」 その理由が知りたい。
 
 「私を生かしてほしいのだ。君がその状態で私の中枢に入れば、その間、私は生きている。君の協力者として私は生きられるのだ」
 「Uと共に宇宙を航行出来るのか?」
 「そうだ。地球人のツクエケイチ、君が興味を持たないはずが無い。中枢に来たまえ」 化一の前方が灯黄色に明るくなった。
 白い霧体の化一は、明かりの中へ入った。ミネラルの霧が霧体の化一を包み、黄金色に輝いた。
 「素晴らしい!予想以上だ」 Uが呟いている。
 化一は自分がUになったと感じた。そして言った。
 「U!私と共に生きてくれ!」 
 「うん、我々は”ネオU”として生きよう」 


 真夏の日本海、海水浴客で賑わう砂丘海岸、Uは観光の名所ともなっている。
 波 しぶきの間から、机化一が現れた。
 突然の出現に驚く水泳客もいたが、海中からのことであり、ながくは疑問に思わない。
 化一は水着姿で砂浜を歩く。よみがえった自身の身体を味わうように歩いた。極めて快調である。
 砂丘の風紋がサヤと動き、彼の歩みを歓迎した。
 
 化一は砂丘を横切り、人知れずに、木陰で消えた。
 化一には行きたい場所があった。Uの体内で見た夢の中の生家である。
 Uと化一の合体した”ネオU”には、Uを越える新たな能力が加わった。
 その新たな能力の一つは、有機体をも合成する能力である。
 ネオUは、鮮明な化一の夢と記憶に基づいて、彼の生家を再現した。場所は山村、山麓の更地、かって化一の生家があったところである。

 鄙びた山村、過疎は進み、まばらな集落内に住民は更に少ない。
 今では、子供の頃に遊んだ仲間もほとんど住んでいない。隣家も無くなっている。
 
 化一はそこに現れた。”故郷の我が家”は有った。
 庭と畑を挟んで小川が流れている。狭い小川を生い茂った雑草がおおっている。
 再現されたばかりの”家”である。まだ”廃家”ではない!。
 突然として現れたこの家に、近隣の住人は、まだ気づいていない。
 「ネオUは、こんなことも出来るんだ!」 化一のこころに感動が走った。
 雑草に雑じって雑草化したジャガイモがある。他にも、幾種もの野菜が見られた。
 化一は、もう一度ここで暮らしたいと思った。
 ・・「この様な”こと”をやってのける”ネオU”は素晴らしい。私はネオUで何かをすべきだ。ここで暮らすのは、将来の夢として、残しておこう」・・


(2)

 化一はUに戻った。
 Uの中枢が黄金色に輝き、ネオUが甦った。
 再現した家を消す。家の再現に使っていたUの組成部分を元に戻す。
 
 ネオUの能力を十分に発揮するには、豊富な素粒子(電磁波・宇宙線・放射線)が必要なのだ。
 「化一、ブラックホールへ行こう」 Uが言う。
 「おれの寿命が尽きちゃうよ」 化一が答える。
 「大丈夫だ、君の脳細胞がそれを可能にする。我々Uに無かった能力がある。それはワープだ」 
 「ワープ? あれはSF(サイエンス・フィクション)の話だろう?」 
 「いや、SFではない。光も空間も、それを造り上げているものは素粒子だ。ネオUは光の相をたぐりよせて膜にし、一挙に光層を越える。光空間の外へ出ることも、光空間の中へ入ることも可能なのだ」
 「光層?光は膜(まく)なのか?」
 「押し潰せば紙のごとく、薄い膜になる。但し、通り抜けるに必要な空間だけでよい。通り抜けた後の光膜は、元の空間にもどる」 
 「なるほど、これまでのSFには無かった発想だ。ネオUは壊れないのか?」
 「大丈夫」 Uが答える。


 「ところで」 と、化一が聞く。「アルミ板による”宇宙人への手紙”だが。これからも宇宙へ向けて発信すれば、君の様な宇宙生物にに遭遇する可能性があるわけだろう?」
 「有る。私はこれまでに他の知的生命体に遭ったことは無いが、アルミ板の”宇宙人への手紙”を発信すれば、宇宙に散らばっている私の仲間達に出遭う可能性がある」
 「他の知的宇宙生命体に出遭う可能性は?」 
 「無いとは言えない。ネオUならば、出遭う可能性も増す。 Uに比し、ネオUの航行範囲ははるかに広い」 と、Uは言う。
 「君に造ってもらったアルミ塊を、アルミ板に換え、新たに”宇宙人への手紙”を発信しよう」 と、化一は言い、Uの反応を待つ。
 「私のメッセージも入れよう」 Uは賛成した。

 人間に戻った化一は、天田六助(あまだろくすけ)と連絡をとった。
 天田六助は四十五歳、政府研究機関に勤務する。通称 Dr.テンロク(ドクター・テンロク)と呼ばれている化学者でもある。
 化一が、Uの発したパルス信号の意味を解いた時以来の、政府窓口であり、国際宇宙機関の政府代表メンバーでもあった。今では、仲の良い友でもある。
 化一の話を聞き、「宇宙機関に提案する」 ことを承諾した。
 そして実行された。
 十数枚の平板に加工された”宇宙人への手紙”は、十数台の小形ロケットによって、多方向の宇宙へ撃ち出された。Uのメッセージも含まれている。
 
 化一はDr.テンロクにネオUについても話していた。
 
 Uは単独での生命を終えた。Uの巨大な碁石はそのままである。
 
 気晶体の化一が中枢に入ることによって、Uはよみがえる。
 二つの生命体はより強力な能力の新生命体ネオUとなる。
 化一とUは対話する。同一生命体内で、互いに友人でもある。


 ある日、鳥取砂丘から、Uの巨大な碁石が飛び立った。
 破壊されたオゾン層を修復した。
 太陽圏を抜けたあと、姿を消した。地球には、彼の軌跡を追う望遠装備は無かった。

                                   (完)  ’04.04.14
                                                     パート3へつづく
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